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「つわりの人」(津和野の女)
私は笑っていた彼女に「すみません。お見苦しいところを見せてしまって」と声をかけた。彼女は「いえ、こちらこそごめんなさい、ちょっと思い出し笑いをしてしまって。実は私も彼と喧嘩して別れたばかりなの」 偶然とはいえ、面白い出会いであった。聞けば津和野に住んでいるとのことで出雲大社へ来た帰りだそうである。私は津和野の町を案内してもらうことになった。
津和野の町はこぢんまりとした城下町という感じである。白壁に沿って流れている水路には鯉が泳いでいた。彼女は少し歩き疲れたのか、水路の傍にそっと佇んだ。彼女の後姿には仄かな色気さえ漂っていた。
私は名残惜しかったが、彼女にお礼を言って別れることにした。しかし彼女も別れたくない素振りをしている。私は思い切って「今晩ご一緒しませんか」と尋ねてみた。彼女は恥らいながらそっと頷いてくれた。
その夜、私達は下関のホテルに泊まることになった。 ホテルで河豚料理の美味しい店を紹介して貰い、早速ふく刺しとふくチリを注文する。花のように盛ったふく刺しは向かい合っている彼女の肌のように透明で美しい。食べてみると、しこしこ感と甘さが何ともいえない味である。肴がいいと酒もまた美味い。私はちびちびと飲み始めていた。笑みを浮かべている彼女の唇を見ていると、次第に情欲が高ぶってくる自分であった。
しばらくすると、急に彼女は青白い顔になり、部屋を飛び出して行った。そして戻って来ると彼女は私につぶやいたのである。 「実は私、お腹に彼の子がいるの」 私はびっくりしてしまった。いつの間にか酒の酔いも無くなってしまっている自分であった。
それにしても、女の心情はつくづくわからないものだと思った。
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